所有者不明地問題への関心

東京財団が2014年3月に発表した、所有者の居住や生死がわからない「所有者不明」の土地に関する初の本格的調査で、その実態の深刻さと問題点がより鮮明なものとなりました。国土交通省は所有者不明地への本格的対策に乗り出し、本年3月、地方自治体の職員等に向けた「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索.利活用のためのガイドライン」を策定し、公表しています。

今、なぜ所有者不明地が問題視されるのでしょうか。一つには、高齢社会の到来とともに都市圏の空き家が増加し、危険家屋化や土地の放棄による地域環境の荒廃化が進む恐れがあるからです。他方、道路開設、災害復旧等の公共事業に対して所有者不明地問題がネックとなっていることは、東日本大震災後の災害復興に大きな影を落としていることからも明らかとなっています。

 

土地が預貯金や株式などに比べて有利な資産であるか否か、それは大都市圏と地方圏では答えは異なってくるでしょう。地価の下落傾向が続き、売買の動きが少ない地方圏では、再利用されない、いわば死蔵したままの土地は資産であるという前提が崩れつつあります。そして、所有に関わる固定資産税や維持に関わる諸費用がかさむだけで、収益を生まない土地は資産ではなく負債であるという認識が広がり、法定相続人が相続登記を行わないケースも増えてきています。

首都圏居住者が故郷の土地に相続権利が発生しても相続登記を行わず、さらに世代交代が進み、法定相続人が拡散・増加し、権利関係がより複雑化する事例も多々、報告されています。

 

我が国には確立された土地情報基盤(土地台帳等の一元管理)が存在しません。土地所有者のトレーサビリティ(追跡可能性)にも制度上の課題が山積しており、近年の土地所有者のグローバル化と、人口減少に伴って土地の管理放棄・権利放棄が拡大していき、今後、国土の所有・利用実態の把握がますます困難なものになっていくとの調査報告書「国土の不明化・死蔵化の危機」(東京財団政策研究)の警鐘は着目すべき事柄でしょう。

 

所有者不明地問題は国家的視点からの国力の衰退に繋がりますが、土地所有者としての個人の立場からも、その子孫に不利益を与えることのないように対策を講じておくことが大切ではないでしょうか。

利用価値の高い土地の相続登記を迅速に行うこと、利用価値が少なく所有が資産ではなく負債となりかねない土地の処分、法定相続人の不明化で隣接土地との境界線の確認が得られないなどの問題に対するサポートや、相続財産の管理・関連業務の対応についてなど、私たち司法書士事務所もその役割に応えていかなければなりません。

 

引用文献:吉原祥子:土地情報基盤の未整備が招く「所有者不明地」が国力を損なう.(東京財団). 週刊エコノミスト.2016.4.12号 p76-79