相続した空き家物件

1.人口減少と空き家の増加

日本は少子高齢社会が進行しています。今年2月に総務省が発表した5年ごとに行う国勢調査の速報値では日本の人口が94万7千人減り、1920年の調査開始以来、初めて減少を記録しました。国土交通省の「国土の長期展望(中間とりまとめ:2011.2)」では2050年の人口は推計9515万人で、現在に比べて3300万人も減少すると予測しています。

総務省の世帯数調査では、全国の世帯数5340万戸、東京都の総世帯数は638万世帯、神奈川県の世帯数も400万、核家族化は進行中で世帯数は増加しています。しかし蓄積された住宅供給数によって空き家数も増加しており、全国では820万戸、平均空き家率13.5%(2013年現在)となっています。首都圏では東京都の空き家数82万戸、平均空き家率11.1%、神奈川県は48.7万戸11.2%で増加傾向にあり、住宅密集地の首都圏では空き家が社会問題として顕在化しています。

2.空き家問題の発生

空き家は防災上、防犯上、公衆衛生上の問題等、地域社会に深刻な影響を発生させる恐れがあります。倒壊等、著しく保安上危険となる恐れのある空き家、著しく衛生上有害となる空き家、適切な管理が行われず景観を損なう空き家など、周辺の生活環境の保全のために放置することが不適切な空き家が増えてきています。このような状態にある特定の空き家に対して、2015年5月に空き家対策特別措置法が完全施行されました。自治体による空き家対策の権限が強化され、最終的には行政代執行の方法で強制的に空き家を取り壊すことが出来るようになりました。

 

2015年3月に、全国で初めて空き家を強制撤去する作業が東京都内で行なわれました。建築後55年が経過しており倒壊する恐れがある空き家を葛飾区が「特定空き家」に指定して、強制的に撤去したのです。撤去費用は空き家の所有者に請求されることになります。

3. 空き家における固定資産優遇措置の撤廃

不動産を所有していると固定資産税がその所有者に対して課税されますが、住宅用地の特例により、住居中のみならず空き家に対しても住宅用地に対する固定資産税は最大6分の1まで減額されています。税制上の優遇措置が受けられるために、空き家のままの状態にしてあるケースが多々あるわけですが、この空き家対策特別措置法に基づく必要な勧告の対象になった特定空き家の土地について優遇措置は受けられなくなり、最大、固定資産税が6倍となります。

4.空き家の相続

空き家は、税金のほかにも囲障の管理を始め、なにかと費用が掛かるものの、売却しない限り収益は生み出しません。不動産管理的に言えば、収益を生み出さない空き家は資産ではなく、負債とみなすべきかもしれません。日経新聞(2016年2月24日付)の記事によれば、空き家のままにしておき相続登記を長年怠った結果、相続人の数が2桁になる事例も少なくないようです。いざ空き家を手放そうと思っても、兄弟姉妹などの共有相続状態では共有者全員の同意がなければ売ることも貸すこともできず、争続問題を引き起こす火種ともなりかねません。売却や名義人変更手続きの迅速化の観点から相続登記はできるだけ早い時期に済ませることが必要かと思われます。

相続財産となった空き家ついては、相続放棄をすれば責任は免れるとお考えの方もいらっしゃいますが、たとえ相続放棄が裁判所に認められても、相続放棄をした元相続人は、その放棄によって次に相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければなりません。したがって、空き家が倒壊するなどによって、第三者に損害を与えた場合には、損害賠償の責任を負うことになる可能性もあります。相続放棄をしたからといって、簡単に空き家の管理義務は免れませんので注意が必要です。